製造業の国際競争力を高めるうえでQCD(Quality、Cost、Delivery)の向上が重要となっております。
当社では一貫生産(一貫加工)体制の確立を目指して、様々な技術の習得に注力しております。
今回は、「航空宇宙製品分野における非破壊検査」に焦点をあて、特集します。
非破壊検査とは、材料や製品を破壊することなく欠陥の有無、位置、大きさ、形状などを調べる検査のことです。航空宇宙分野では非破壊検査を実施することが義務付けられており、浸透探傷検査、超音波検査、渦流探傷検査、磁粉探傷検査、放射線透過検査などの種類があり、検査する製品の用途や性質に合わせて最適な方法を選択します。
MPソリューション中部事業部小牧事業所ではこれらの非破壊検査の中で浸透探傷検査を行っています。浸透探傷検査とは、欠陥の中に見易い色や輝きを持たせた浸透性の良い液体(浸透液)を浸み込ませ、再度表面に吸い出すことにより欠陥を拡大して見つけ出す方法であり、肉眼では見えない微細なキズなどを発見することができます。
MPソリューション中部事業部ではタービンブレードなどの航空機用エンジン部品検査に適用して欠陥のない高品質の製品を安定して出荷しています。
航空宇宙製品の非破壊検査を行うためには、NAS410(米国)やEN4179(欧州)といった海外規格に基づいた認定試験に合格して資格を取得することが必要です。また、各製品のプライム・コントラクター~{※1}ごとに非破壊検査のシステムを運営できる権限を与えられるサプライヤーレベル3の資格も併せて必要となります。
資格は、経験年数や技量レベルによって、レベル1からレベル3の三段階に分かれており、非破壊検査システムの運営や維持管理を行うには、レベル3の資格を有した者が必須です。このため当社では、レベル3認定検査員を育成するため、海外の認証機関に当社技術者を派遣し、学科講習や実技トレーニング、認定試験を受けた結果、上記2つの資格を取得いたしました。
これによって当社では、NAS410・EN4179・顧客の認証仕様書に基づき、レベル3資格者をResponsible Level3に任命することで、社内にて非破壊検査員の資格認定を運営する権限を有することができました。
若手検査員は当社内にて日常業務を行いながら経験時間を積み上げるとともに、ベテラン検査員の指導を受ける事によってスキルアップを図り、受験要件に達したら社内資格試験を受験し、合格すれば各レベルの認証を取得することができるため、検査員の育成・資格認証が容易になりました。
非破壊検査は、放電加工、熱処理、コーティング、表面処理といった特殊工程※2の一つであり、航空宇宙製品に適用するためには、航空宇宙専用の規格(JISQ9100・NAS410など)に加えて特殊工程国際認証制度Nadcapの認証取得が、各プライム・コントラクターにより義務付けられています。
Nadcapは、国際認証制度のため、文書類や監査は 基本的に英語が使用されます。このため、タービンブレードの生産立上げに向けて 約1年をかけて品質管理マニュアル、作業手順書、チェックリスト、設備管理要領書などの文書を英文で準備した上で、PRI(監査機関)による審査を受審し、 マニュアル内容、作業者技量、作業手順遵守状況、設備維持管理状況などが航空宇宙産業の要求基準を満していることが確認され、Nadcap認証を取得することができました。
浸透探傷検査を行うためには、前処理、浸透処理、洗浄処理、現像処理、合否判定、後処理といった一連の工程を行うための設備が必要です。現在、小牧事業所には自動ラインと手動ラインの2台の浸透探傷検査設備があります。自動ライン検査設備はロボット装置を用いて自動化を行っており、前処理から現像処理までの一連の工程が流れ作業で自動化され、検査員は判定作業のみに集中することができるため、大量生産に適しています。
本設備を用いた自動ライン検査システムはロールス・ロイス社(Rolls-Royce)の認証を取得しており、タービンブレードの非破壊検査に活躍しています。 一方の手動ライン検査設備は全工程をほぼ検査員が手作業で実施します。大小様々な形状の部品に適用でき、また使用する浸透液の種類も検査対象部品に応じて変えることができるため、汎用性の高い設備となっております。現在、本設備は、ロールス・ロイス社(Rolls-Royce)及びプラットアンドホイットニー社(Pratt & Whitney) の認証を既に得ており、圧縮機・燃焼器関連部品の非破壊検査を行なっております。
現在、MPソリューション中部事業部が取り組んでいる民間航空機エンジン事業における 今後の需要見通しは長期間に渡って継続的な成長が見込まれており、事業拡大には製品競争力を更に高めることが必要であり、コスト削減とリードタイム短縮が求められています。このためは従来の機械加工、溶接、熱処理等の各工程を個々の会社が各々行う「のこぎり型生産方式」から、各工程を統合化して中核会社が取りまとめる「一貫生産方式」への転換が必須と考えます。この一貫生産方式を1社単独で行うことは非常に困難であり、従って各工程を得意とする各社が連携して事業を行う産業クラスターが各地で形成されています。
タービンブレード生産はその取り組みの一例であり、当社が中核会社となって供給と品質を保証するシステムを構築しています。非破壊検査は航空宇宙製品の一貫加工において必ず実施しなければならない工程である一方、検査員資格やNadcap審査等の認証取得のハードルが非常に高いため、これらの認証を既に取得していることはクラスター事業を展開する上で非常に大きな強みとなります。これからも非破壊検査技術の維持・向上に努めて、安定した高品質の製品を提供し続けることによりお客様のニーズにお答えするとともに、各種認証保有を大きな強みとして新たな分野の製品にチャレンジして行きます。
※1 プライム・コントラクター:
オリジナルの設計権・部品発注権を持った企業(航空機メーカーやエンジンメーカー等)のこと。
※2 特殊工程:
後工程の検査や試験でその製品の品質基準を満たしていることを検証することができない工程のこと。
当社では、ガスタービン分野・航空機エンジン部品分野を中心に様々な非破壊検査を実施しております。一貫生産(一貫加工)体制の確立に向けて、これからも新たな技術の習得に邁進して参ります。
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